導入事例: 住友電気工業株式会社

住友電気工業株式会社は、関連会社を含めると 15 万人という規模で計 5 つの事業分野があり、業務内容も多岐にわたるため、業務システムにも様々なニーズが寄せられます。複雑な要望に対して情報システム部が選んだのは、端末やソフトウェアのバージョンに依存しない、Web ブラウザで使える業務システムを構築することでした。さらに現在は、子会社も含めてほとんどすべての業務システムをオープンソースで運用するという、大規模運用を成功させて注目を集めています。まだ国内でインターネットやオープンソースがそれほど普及していない頃から、どうしてそのような決断ができ、成功させることができたのでしょうか。情報システム部で情報技術部主席を務める大釜秀作氏にお話を伺いました。

複数のブラウザで使えることが肝でした

大釜氏が所属する情報システム部は、業務システムの開発や使用するソフトの選定、端末のサポートなどを行っている部署です。同社では、業務に関するシステムはすべて自社で運用しているため、その仕様の作成から、評価、運用についても情報システム部で実施しているそうです。

「開発そのものは関連子会社である住友電工情報システム株式会社 (SIS) が行いますが、どのようなシステムにするかは情報システム部で方針を決めています。定期的にシステムの見直しを行なっていますが、10 年前に大規模な見直しをすることになった際にまず決まったのが、Web ブラウザで使えるシステムにしようということでした」

どんなに素晴らしいシステムでも、その使い方に合わせて社員が工夫しなければならないというのは本末転倒です。そこで、当時のパソコンを強化してどのパソコンでも Web ブラウザを使えるようにし、Web ブラウザから業務システムを使えるようにすれば、幅広い業務内容に合わせた柔軟なシステムが構築できると考えたのです。

「また、標準ブラウザをひとつだけにすると、セキュリティの対応や、いずれかのブラウザが開発をやめるといった時に問題が生じるかもしれないので、Netscape (現在は Firefox) と Internet Explorer (IE) の両方で使えるシステムを構築することになりました。特定のブラウザに絞るよりは、はるかに苦労はありましたが、おかげで端末の環境が多少異なっても問題なく使うことができ、10 年たった今でも安定して運用できています」

Web アプリの普及を 10 年前に予感していました

システムの構築を始めた当時は、インターネットバブルのまっただ中で、Web ブラウザも開発途上でした。パソコンやインターネットを取り巻く状況は変化しましたが、ブラウザの必要性はますます高まり、今や書類やデータベースといった Web アプリケーションを、ビジネスシーンで使うのは当たり前となっています。

「私自身は、当時から Web アプリケーションの時代がやってくるという予感があったのですが、大規模な運用にも耐えられるシステムをブラウザコンピューティングで構築することは、開発者にとっては大きなチャレンジでした。結果的にその判断が正しく、オープンスタンダードなシステムになりました。おかげで、当時の仕様を大幅に変えたり、高価なコンピュータを買い替えたりせずに、運用を続けられています」

ブラウザコンピューティングの選択は、長期的なコスト削減も視野に入れたものでしたが、その課題ももちろんクリアされています。また、10 年前から Web アプリケーションを使う環境を提供できたのは、社員の IT スキルを高める上でも、役立っているということでした。

大手でも潤沢なサポートが提供されるとは限りません

同社での業務システムの特徴に、オープンソースをいち早く取り入れてきたことが挙げられます。会社全体で導入されているパソコンはかなりの台数があり、ソフトを 1 本入れ替えるだけでも大変なコストがかかるからです。

「とはいえ、会社から支給する業務用端末については、情報システム部でサポートを行うので、ソフトウェアの選択は、単なる安さよりいかに安定して運用しやすいかを見極めます。Web ブラウザは Firefox を追加インストールし、メールソフトは以前、有料の製品を使っていましたが、Windows のバージョンが徐々に上がって開発サポートが難しくなったため、代わりに Thunderbird を推奨しています」

市販品だから手間がかからないというわけではないため、オープンソース製品も良いものがあれば選択肢に入れるとのこと。ソフトも厳密に制限しているわけではなく、Firefox や Thunderbird についても、標準のまま提供しつつ (社員の自己責任の部分はありますが)、カスタマイズやアドオンの追加は業務に影響しない範囲で自由に行えます。

「個々の製品のアップグレードも社員自身で行うようにしており、それらの情報は、社内の掲示板システムを利用して発信しています。弊社の社員は IT に強いというわけではないのですが、先日、簡単な調査したところ、社員の約 3 割が Firefox を使っているようでした」

いかに効率良く集中管理できるかが課題です

大釜氏が日々の業務で課題にしていることのひとつが、大量の端末をいかに効率良く集中管理できるかということです。普及が進んだとはいえ、パソコンやインターネットを使いこなすスキルは社員によってばらつきがあります。たとえば、ソフトウェアのバージョンアップがあった際に個別での対応は難しいので、サーバ側でコントロールするといった工夫もしたいということでした。

「会社の規模がとても大きいので、個別に対応していてはきりがありません。オープンソースソフトウェアに関しては、専門家に依頼すれば、策を立てることもできるはずですし、今後はオープンソースを使った大規模なシステム運用の事例も出てくるので、そうした情報を参考にしていきたいと考えています」

管理側にとって便利な機能を追加しても、業務の使用に差し支えるようでは意味がありません。そうしたバランスを考えつつ、社員が安心して利用できるシステムを運営することが何よりも大切だと大釜氏は話します。

「Firefox や Thunderbird は、管理者が設定項目などを一括指定する方法もあるそうですが、どのタイミングで切り替えるか判断が難しいところもあります。オープンソースに関してはどんどん性能が良くなっているので、運営側だけでなく、ユーザの手を患わせないようなシステムが登場することを期待しています」

コラム

取材の中で大釜様から要望のあった、設定項目やバージョンアップを管理者が集中管理できる機能は、あまり知られていませんが、Firefox、Thunderbird ともすでに標準装備されています。Mozilla の開発者向け情報サイト「Mozilla Developer Center」にある説明資料を大釜様にご参照いただいたところ、社内で実運用が可能か検討されるとのことでした。既にこの機能を利用している企業もありますので、今後事例として紹介できればと思います。